ある程度の英語力はあるけれど、海外MBAのために英語力をもう一段アップさせたいという方は多いと思います。
海外経験ゼロで語学学校も行かなかった私ですが、無料ツールを駆使して海外オンラインMBAレベルの英語を身に付けました。
この記事では、海外オンラインMBAを目指す方を対象に、良質で継続しやすいお勧めツール4選をご紹介します。

1. MBAレベルの英語力
・IELTS6.0あれば十分?
海外オンラインMBAの入学要件となる英語スコアはIELTSなら6.5、TOEFLなら79あたりが標準的です1。
これは大体、TOEIC800点程度と換算できます。
(TOEICはIELTS,TOEFLのように4技能の総合試験ではありません。あくまでも参考値とお考え下さい)
ではIELTS6.0/TOEFL79/TOEIC800があれば、海外オンラインMBAの学習は安泰なのでしょうか?
・「英語プラスアルファ」が成果を左右
実はそうではありません。
英語能力テストで測れるのは、あくまでも読む/書く/聞く/話すという4技能の水準です。
IELTS6.0,TOEFL79というのは、英語ネイティブの学生と同等のスタートラインに立つための最低条件です。
実際の海外MBAの学びでは4技能をフル活用しつつも、更に
- グローバル課題への関心
- 情報収集/処理
- ロジカルな説明スキル
といったプラスアルファの能力が高いレベルで求められます。
つまり、英語環境下でこのようなプラスアルファ能力を十分に発揮できるが学びの成果を左右するのです。
2. プラスアルファ力を磨くために
こう聞くと、相当ハードルが高いように思えてしまうかもしれません。
でもご心配なく。
留学・駐在経験はなく、MBA予備校や語学学校にも通ったことがない私でも、「英語プラスアルファ」を独習で身につけることが出来ました。
ここでは、MBA入学前に利用し、今でも継続している絶賛お勧めツールをご紹介させてください。

*R、W、L、Sはそれぞれ、Reading, Writing, Listening, Speaking。どの技能に特に効果があるかを〇で明示。
オーソドックス過ぎて拍子抜けなさった方もいるかもしれませんが、私がMBA前に利用したのはこれ以外にはありません(Chat GPTは当時未公開でした)。
ツールの選択で重要なのは「質」と「継続」だと思います。
世の中には良い英語ツールは山ほどありますが、私がこの4つを続けている理由は以下の通りです。
- 提供元がワールドクラス →情報やロジックの質を担保
- コンテンツが豊富 →無理なくあらゆるグローバルトピックに触れられる
- 毎日気軽に取り組める →情報が整理しやすく、継続意欲もキープできる
- 無料(一部有料)→継続しやすい
たとえばPodcastを1本聞く間に朝の支度をし、通勤電車ではTED。
仕事中は事あるごとにChat GPTに問合せ、お昼休みはCourseraを2~3ユニット。
帰宅後もPodcastを流し聞きしながら、寝る前にベッドで読書…。
毎日続けるには、無理のないタイミングを決めておくのもコツです。
ここからは、私が毎日お世話になっているこれらのツール達について詳しくご紹介させて頂きます。
3-①. Coursera(コーセラ)
・Courseraとは?
まずは一番思い入れがあるCourseraからご紹介します。
Courseraは、1億2千万人以上のユーザーがいる世界最大級のLearning platformです。
最大の魅力は、知的好奇心を刺激する良質な講座が充実していること。
提供元はYaleやStanfordといったトップ大学やIBM、Google, Amazonなどのメガテック企業。
例えば”Data Science”と検索してみると、選びきれないほどのコースがヒットします。

・MBA挑戦への背中を押してくれた
MBA前に大学レベルの講義を体験するという意味でも、ちょうど良いと思います。
講義内容はもとより、一流講師のロジックの組み方、プレゼンテーション手法など、学べることは山のようにあります。
私の場合は、もともと「MBAなんて夢のまた夢」と思っていました。
ところがCourseraで、Accouting, Management, Critical Thinkingなどをランダムに受講するうち、少しずつ英語講義への不安が解消され、「ひょっとしてMBAいけるかも?」との微かな自信が芽生え、受験の決心がつきました。
知らず知らずのうちに、「英語プラスアルファ」が身につく感覚があったのかもしれません。
あのCoursera体験が無ければ、一介の非正規労働者だった私がMBA挑戦など大それたことは出来ませんでした。
CourseraがMBA挑戦への背中を押してくれたと思っています。
3-②. Podcast
・Podcastとは?
さて次は代表的な音声配信サービスであるPodcast。15年以上、毎日のように聞いています。
こちらも様々なプログラムがありますが、グローバル感覚を養える番組を選ぶことをお勧めします。

・BBS Global News
長年のお気に入りは、BBCのGlobal News Podcast。毎日2回(約30分/回)新しいエピソードが発信されます。
世界中に散らばったBBC特派員による硬軟取り混ぜた現地レポートが売りです。
例えばある日は…。
- 冒頭でイスラエルやベネズエラの政局不安のレポート
- その後はインドネシアのパーム油業者の抗議デモの様子
- はたまたイタリアでカルボナーラの缶詰が巻き起こした賛否両論
- かと思えば最近亡くなったブラジルのボサノバシンガーへの追悼
などなど。
どれも現地インタビューが挿入されているので、様々な地域/ランクの人々の生きた英語、生のメッセージが聞けます。
BBCというフィルターを通した社会の定点観測として、貴重な情報源となっています。
たとえば最近日本でも聞く”Quiet Quiting”という単語などは、かなり以前にBBCで耳にしており、欧米での働き方のトレンドとしてインプットしていました。
気になる情報は別途、手元で深堀りするなどして、情報を整理しています。

・TED
もう一つ、TED Podcastもよく聴いています。
TEDのコンセプトは ”Ideas change everything”、以前は”Ideas worth spreading”でしたね。
まさにそのメッセージ通り、サイエンス、哲学、ビジネス、アート…とあらゆる分野のエキスパートの話がふんだんに聴けます。
私が好んで聴くのはリーダーシップ、マーケティングなどのビジネス系やソーシャルサイエンス系です。
たとえば欧米のベストセラーを逐一読破するのは大変ですが、運が良ければ著者がTEDで自著を語っているケースがあります。
実際、後述する”Must Read List”に挙げた著者の多くが、TEDに登壇しています。
お勧めトークは無数にあるのですが、バランスを考えてここでは以下の3本をご紹介します。
3-③. Chat GPT
・Chat GPTとは?
3つ目はChat GPTです。
まさにDisruptive Technologyで私ごときでご説明する自信はありませんが、今回の文脈では、Reading, Writing, Listening, Speaking全てに有効な万能ツールだと思っています。
・私の使い方
私は無料版をごくシンプルに使っています。
- 長文プロンプトをテキスト入力::Writing
- 短文プロンプトを音声入力:Speaking
- テキスト回答を読む:Reading
- 音声回答を聴く:Listening
音声の場合は性別やUK/USを選んだり、再生速度を変えることができます。

もちろん音声入力だと、発音が悪ければ上手く聴き取ってくれないことも多々あります。
下記は、最近私が音声入力したつもりのプロンプトと、それを聞いたChat GPTが実際にテキスト化したプロンプトです。
私が言ったつもりの内容:Can you explain the book “Re-Work” written by Jason Fried and David Hansson in just 200 words?
Chat GPTが聞き取った内容:Can you explain the book “The Work” written by Jason Fleet and David Heinemeiner Hansson in just 200 words?
赤字が原文との不一致箇所ですが、”Re”と”Fried”は私が正確に発音できなかった箇所、”Heinemeiner”はご親切に著者のミドルネームを追加してくれています。
実際のChat画面は以下の通りです。

発音に自信がなくモゴモゴ発音した箇所は、やはり正確に伝わりませんでした。
AI相手だと間違いを気にしなくて良い気楽さがあり、マズい英語でも推測・修正してくれるので、話題が前に進み、学習意欲をキープできます。
こういう点がスピーキングの練習にちょうど良いと感じています。
ちなみに回答は私の意図通り、ちゃんと”Re-Work”という本についての説明になっています。
文字入力で長いプロンプトを書いた場合は、「文法ミスはないか?もっとナチュラルにするにはどこを修正すればよいか?」と訊くこともあります。
ライティングは添削してもらえる機会がなかなか無いため、Chat GPTは貴重なツールです。
もちろん海外MBA情報は英語がほとんどなので、英語でChat GPTに聞けば、ありとあらゆる情報をどんどん深堀することができ、これとない情報源となります。
3-④. Must Read List
・Must Read Listとは?
最後はMust Read List。要は、推奨書籍のタイトルリストです。

日本ではそれほどでもありませんが、欧米の大学教育では「読むこと」を非常に重視23しています。
オンラインMBA各科目ごとに”Reading List”が提示され、幅広い知見や情報をインプットしなければなりません。
科目によっては膨大なリストになることもあり、必要な情報をいち早く見つけ、処理するスキルが重要です。
なので、入学までにMBレベルの良書をスキミング(斜め読み)できるくらいになっておくと、入学後かなり楽だと思います。
一流著者のライティングに多く触れることで、説得力のあるロジックの作り方、効果的な表現などが刷り込まれるので、ライティングにも有益です。
・Seattle Universityのリスト
下記はSeattle UnivetsityがMBA生に推奨する”Must Read List”です。
他校のリストや著名CEOの推薦書から厳選した10冊とのことです。
私が読んだ本には一口コメントを付け加えました。翻訳版がある本は日本語タイトルも併記しています。
Seattle University
10 Must-Read Books for Your MBA Reading List
1.“The Hard Thing About Hard Things” by Ben Horowitz /『HARD THINGS』ベン・ホロウィッツ著
著者は有名なベンチャーキャピタリスト。数々の破滅的な挫折を元に「Hard thingsへの解決策は一つではない」として、問題解決への実践的なアドバイスを与えてくれます。立ち読みで止まらず、思わず購入してしまった一冊。
2.『Scaling Up Excellence』by Robert I. Sutton and Huggy Rao
企業文化の形成と優秀な人材を育てる方法が書かれた本。エクセレンスを育む企業文化の構築がいかにして組織全体に広がるのかを、研究と事例を交えて解説してくれています。企業の成長と効率的な運営に役立つ一冊。私は未読です。
3.“The Innovators Dilemma” by Clayton M. Christensen /『イノベーションのジレンマ』クレイトン・M・クリステンセン著
紹介するまでもなく有名な「破壊的イノベーション理論」を提唱したのが本書。なぜ成功を維持するのが難しいのか、そしてイノベーションをどのようにシステム化できるのかを説明しています。原著はイノベーターのジレンマなんですよね…。
4.“Thinking Fast and Slow” by Daniel Kahneman /『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン著
萌芽期の行動経済学をリードし、心理学者ながらノーベル賞を授賞したカーネマンの一般向けの書。数々の実験結果と共に、意思決定に関するプロスペクト理論などが説明されています。学会同士の駆け引きなども描かれていてとにかく面白い!
5.“Blue Ocean Strategy” by W. Chan Kim and Renée Mauborgne /『ブルーオーシャン戦略』W. チャン・キム、レネ・モボルニュ著
もはや一般用語になったブルーオーシャン戦略。時代に適合しなくなった箇所を修正し、新版が出ています。私もMBA生時代にマネジメント、マーケティングなど色々な科目の先生から推奨されたのがこの本です。
6.“How to Win Friends & Influence People” by Dale Carnegie /『人を動かす』デール・カーネギー著
古典の名著。人のモチベーションについての深い洞察があり、タイムレスな味わいがあります。ウォーレンバフェット氏の愛読書としても知られています。私も大切な方へのプレゼントに送った経験があります。
7.“The Lean Start-Up” by Eric Ries /『リーン・スタートアップ』エリック・リース著
スタートアップやアントレプレナーに向けた「リーン」なアプローチを科学的に解説する本。その界隈ではバイブルのように読まれています。私はMBAでトヨタ生産方式を学んだ際、そのデリバティブ?としてこの本を読むことになりました。
8.“Shoe Dog: A Memoir by the Creator of Nike” by Phil Knight /『シュードッグ』フィル・ナイト著
ナイキの創業者フィル・ナイトの回顧録。彼のビジョンと決意が、ナイキをグローバルな成功に導いた物語。マーケティングの授業では本書と併せて、ブランドを痛烈に批判するNo Logo(著者Naomi Clein)も読まされました。
9.『Rework』by Jason Fried and David Heinemeier Hansson
伝統的なビジネスの常識に挑戦し、シンプルで効率的なアプローチを提案する本。ソフトウェア会社Basecampの経験をもとに、無駄を省き、質を重視し、ワークライフバランスを大切にすることの重要性を説いています。私は未読です。
10.“Moneyball” by Michael Lewis /『マネーボール』マイケル・ルイス著
著者はファイナンスジャーナリスト。統計によるインサイトでビジネスを成功に導くストーリーですが、エンタメ要素も多い本なのでMBAのMust Readに入るのはサプライズとのことです。私はブラッド・ピット主演の映画で楽しみました。
4. まとめ
ある程度の英語力を既にお持ちの方がMBAレベルの英語力にレベルアップするためには、質の良いコンテンツを継続してインプット/アウトプットすることが大切だと思います。
もちろん継続のインセンティブは人によって違います。
私の場合は、日々の学習で知的好奇心が刺激されると「明日はどんな発見があるかな?」と継続意欲に繋がります。
ここでご紹介したツールは、どれも大金をかけずに取り組めるものばかりです。少しでもご参考になれば嬉しいです。
*本記事は執筆時点での筆者のリサーチに基づいています。最新の情報は各ウェブサイトでご確認なさって下さい。
- 欧米の国際認証オンラインMBA100校以上についての独自リサーチに基づく。 ↩︎
- 苅谷剛彦(2015).『アメリカの大学・ニッポンの大学』.中央公論新社 ↩︎
- 苅谷剛彦(2015).『イギリスの大学・ニッポンの大学』.中央公論新社 ↩︎